mastemのブログ

本好きの備忘録( *´艸`)ゆるゆる感想と日常について書いてます

【読書感想文】「落日/湊かなえ」

こんばんは、totocco(トトッコ)です(*´ω`)

今夜は先日読み終わった湊かなえさんの本の感想を( ..)φメモメモ

 

「落日/湊かなえ

 

◆あらすじ

主人公は2人。

章が変わるごとにそれぞれの視点から物語が紡ぎ出されます。

大きな賞を受賞した長谷部監督がほぼ無名の脚本家に依頼をします。かつて起こった事件をモチーフに映画を撮りたいという監督。

しかし甲斐はその映像からのメッセージを受け手が受け取りたいと思えるか疑問に感じ、口に出してしまう。

そのためこの仕事が流れそうになったものの、甲斐は下調べを兼ねて地元に戻ることに。


2人に共通していることは、同じ町の出身であるということ。

少し接点としては弱い2人ですが、物語が進むにつれて意外な接点が浮かび上がってくることに。

それぞれが抱く、心の中に抱えている闇をどのように作者は救いを差し伸べるのか?

 

◆感想

さすが湊かなえだと思いました!

ページ数は380ページとなかなかボリュームがありますが、一気に読み進められました。

 

主人公の1人、長谷部監督。

彼女の幼少期は影のあるものでしたね。

母は教育熱心ですが、ある種の虐待なのではないかと思った。

そんな時に自分と同じようにベランダに出された幼い人物がいたら。

声をかけたわけじゃない。

けれど決してそれぞれが孤独だったわけじゃない。

手を使って互いを励ましていた。

そしてスーパーで出会った時、あの手の持ち主は沙良と名乗る自分と同じ年齢の子だったと思うでしょうね。

まさかその手の持ち主は、彼女の兄だったとは。

しかも虐待されていたとは思わなかった。

 

手だけの交流も、その後実の父が自殺したため引っ越すことになった。

母から責められ、首を絞められる。

そんな経験はどんなにか痛ましいだろう。

 

長谷部は中学校時代にいじめられていた男子生徒を助ける。

しかし彼から乱暴された(未遂となるのかな?)後に彼が自殺したことで、自分がまるで悪人のように教師や彼の母から扱われてしまった。

耐えられないと思う。

しかし真相は、母も後追いで自殺するかもしれないと心配になった男子生徒の姉が遺書に細工したというものだった。

 

 

もう一人の主人公、甲斐真尋は1つしかヒットしなかった売れない脚本家。

本作の中で彼女のどこまでも詰めが甘い様子が描かれています。

そしてけっこう心の中は腹黒いなと思いました(少し苦手なヒロインでした)

そんな彼女には自慢の姉がいました。

ピアニストの彼女は世界中を駆け回っていた。

…ということになってた。

後半に実はその姉は高校1年生の時に交通事故で亡くなっているという事実に衝撃を受けた。

だからいつまでたっても姉からの返事が書かれないのだ。

真尋は2つのスマホを持って亡き姉が生きているかのように姉に向けてメッセージを送っていたのだ。

この気持ちを想像すると切ないですね。

 

ラストで、亡くなった姉と沙良を殺害した力輝斗に接点があったことが判明。

まさかの展開にビックリしました!

てっきり沙良が本当は虚言癖ではなく、本当は心優しい少女で凶悪な兄によって命を奪われたんだというストーリーだと思っていたので。

 

沙良の情報を辿って沙良の真相にたどり着く。

もしくは、

殺人者、力輝斗と面会して事件の真相を探る。

 

この2つの展開だろうと思っていたのに!

まさか第3の展開が待っているとは…!

さすが湊先生!

つまりこの殺人事件とは無縁と思っていた真尋の姉が殺害された沙良と関わりがあり、更に公園で何度も会っていた少年は彼女を殺害した力輝斗だったとは。

 

真尋は姉のストーリーとして、この一家殺人事件の話をモチーフに脚本を描きました。

そして監督が作り出したかった「救い」をラストに忍ばせて。

 

映像を作り出す人たちにとって、本物の事件を通して彼らや彼女たちが感じた世界を描く。

本当のことを描こうとするのは限りなく不可能に近いでしょう。

しかしだからこそ、創作の世界では自分がみたい世界を描くことができるのではないか。

この世界をスクリーンを通して誰かが救われてくれたら。

 

真尋の脚本では、殺人者力輝斗は刑務所の中でかつてベランダで励ましてくれた小さな手を思い出す。

その描写は確かに監督にとって救いだったでしょうね。

 

一方、真尋にとってもこれまで自分たちの中で生きていることになっていた姉の本当の姿を描くことができたんじゃないか。

生きていたことにされていた時の姉は、本当は空虚な真尋の願望だったのではないか。

それは空っぽの姉。

それは死体同然の姉。

 

それが脚本を描こうと行動していく中で、ゆっくりと姉の実像が浮かび上がってきた。

ピアノに悩み、願掛けとして鉄棒に挑み、公園で出会った力輝人を好きになっていったというエピソードを知る。

 

この知るという行動は、真尋のエゴ。

長谷部がかつて自殺したクラスメイトの真実を知って映像にしようとしたこともエゴ。

死人とは言え、彼や彼女にもプライバシーはあると私は思う。

真尋の父は姉のことを過剰に知ろうとする真尋をあまり良く思っていない様子だったことを思い出した。

すごくそこが難しい。

 

ラストで自殺だと思っていた父が事故死だったことを知った長谷部。

すごくホッとしたでしょうね。

父の自殺で母は追い詰められ、中学校の時の経験から自殺したくても自分まで自殺すれば祖父母が悲しむと思って思いとどまる。

 

起きた事実はある。

しかしそれをどの人物がどう受け取るのか難しい。

1つの出来事にたくさんの視点があれば、悲観的な出来事さえも光が差すこともあるのかもしれないですね。

 

◆さいごに

ここまで読んでくれてありがとうございます^^